トロロン・モンドは、サンテミリオンの最高地点、標高106メートルにある。ここに立つと、他の全てのシャトーと畑が、眼下に広がる。PGCCになって当然の、特別の力がここにある。 しかし標高が高いということは、涼しいということだ。当主クリスティーヌ・ヴァレットは言う、「ここはサンテミリオンの中でももっとも収穫が遅い」。気候が涼しいだけではない。トロロン・モンドは「土壌が冷たい」。つまり、畑の多くの区画が、重い粘土質土壌なのだ。ブドウは頭も冷やされ、足も冷やされ、成熟は遅々として進まない。この理由が、トロロン・モンドに、サンテミリオンでもっとも硬質で堅牢な性格を与えてきた。彼女が父からこのシャトーを譲り受けたのは、81年だった。「父にセラーに連れていかれると、そこにひとりの男性がおり、『私はミシェル・ロランです』と挨拶されました。『ここで生まれましたが、ワインのことはわかりません』と言うと、彼は答えました。『簡単な仕事ですよ。一緒にやりましょう』。それから彼とは友達になりました」。 シャトーで働く人材を選んだあと、彼女は収穫時期を徐々に遅くしていった。そして85年にセカンド・ワインを導入。80年代末にかけて、選果をより厳しくし、仕事の細部をより完璧にするように心掛けていった。90年には、発酵室を改築し、それまでのコンクリートタンクを壊し、ステンレスタンクを導入した。90年は偉大な年だった。可能なことをすべて試してみようという挑戦がなされた。そして89年には50hl/haだった収量はこの年には25hl/haにまで抑えられ、樽熟成は過去最長の20ヵ月に達した。そして生まれたのが、伝説的なトロロン・モンド90年だった。圧倒的な密度の果実を、緊密な構造が支える、巨大にして優雅なワイン。ヴァレット自身も「私だってもう一度90年のような年が来ればいいと思っているけど、残念ながらそうはいかない」と言う、いまだ鮮烈に記憶に残るワイン。あれほどのトロロン・モンドは、以来二度と現れていない。だが90年ヴィンテージによって、トロロン・モンドの実力は皆の知るところとなった。彼女はそれから畑の改良を進め、「エレガンスの向上を目標に」して、着実にシャトーの評価を高める努力をしてきた。だから96年の格付け改定時には昇格が噂されたが、それは叶わなかった。 2006年、9月8日。INAOから一通の手紙が来た。彼女は従業員全員をオフィスに集めた。自らの努力とその結果に対して自信があった彼女は、螺旋階段の途中に立ち、従業員の前で手紙を開封した。「プルミエ・グラン・クリュ・クラッセへの昇格を認可します」。それを読むと感極まる人々のあいだに鳴咽が広がったという。








